英国出身で、日本でサッカー解説者・コメンテーターとして活躍するベン・メイブリーさんによる、プレミアリーグの歴史を時代ごとに紐解く三部作の第1巻。
本書では、プレミアリーグ誕生以前のイングランド・フットボールの歩みから、前身であるイングリッシュ・フットボールリーグ(EFL)の時代、そして1992年のプレミアリーグ創設から1990年代前半までが描かれています。
現在では世界中のスター選手と莫大な資本が集まり、「世界最高のリーグ」と称されるプレミアリーグ。しかし、その誕生は決して華やかなものではなく、社会問題や経済的事情、数々の悲劇を乗り越えた先にありました。
試合を観るだけでは見えてこないクラブの背景やライバル関係を知ることで、プレミアリーグ観戦はさらに奥深いものになる。そんな魅力を教えてくれる一冊です。
総合評価⭐⭐⭐⭐⭐
読みやすさ ★★★★★
初心者向け ★★★★☆
情報量 ★★★★★
観戦が楽しくなる★★★★★
おすすめ度 ★★★★★
1. 印象に残ったこと
■ フットボールの成り立ち
19世紀後半、産業革命によってイングランド各地を結ぶ鉄道網が発達すると、地域ごとに異なっていたフットボールのルールを統一する必要が生まれました。
1863年10月、FA(Football Association)が設立され、議論の末にラグビー的要素が排除されて現在のサッカーの原型が誕生します。
特定の地域のルールがそのまま採用されたのではなく、対話と合意形成によってルールが整備されたという過程には、イギリスらしい民主的な文化を感じました。
■ 試合の生中継が生んだもの
イングランドでは1936年にテレビ放送が始まり、翌1937年には世界初のフットボール中継が実現しました。
一方で、リーグ戦の放送については「観客動員を減らすのではないか」と懸念するクラブも多く、1980年代まで限定的な扱いでした。
日本では巨人戦中継がプロ野球人気を押し上げる一方、特定球団への人気集中を招いた側面があります。
それに対し、イングランドで地域のクラブを実際にスタジアムへ観に行く文化が育った背景には、リーグ中継が限定的だったことも影響しているのではないかと感じました。
■ フーリガンの時代
1985年のヘイゼルの悲劇、1989年のヒルズボロの悲劇。
プレミアリーグ誕生前の1980年代、イングランド・フットボールは暴力や混乱のイメージと切り離せない時代を迎えていました。
その背景には、高失業率やインフレなどによる社会不安がありました。労働者階級の娯楽であったフットボールは、時に鬱積した感情のはけ口にもなっていたのです。
老朽化したスタジアムというインフラの問題も重なり、悲劇は繰り返されました。
スポーツは人々に感動を与える一方、多くのエネルギーが集まる場でもあります。そのエネルギーの向かう先を誤れば、熱狂は悲劇へと変わってしまうことを改めて考えさせられました。
■ プレミアリーグ誕生の背景
1980年代後半、観客減少やスタジアム改修費用の増加、欧州大会への参加制限などにより、各クラブは経営的な苦境に直面していました。
そこに大きな転機となったのが、テレビ放映権の価値の高騰です。
複数の放送局による競争によって想定以上の放映権料が生まれ、ビッグクラブを中心に新リーグ構想が具体化。1992年、プレミアリーグが誕生しました。
現在でもプレミアリーグは比較的平等な放映権分配を維持しており、中堅クラブであっても欧州の強豪に匹敵する資金力を持っています。
世界最高峰のリーグとなった背景には、「経済の仕組み」を最初から重視していたことが大きかったのだと感じました。
■ リヴァプールとマンチェスター・ユナイテッド
プレミアリーグ初期の主役はマンチェスター・ユナイテッドでした。
しかし、発足当時に最も成功していたクラブはリヴァプール。1994年時点ではリーグ優勝回数はリヴァプール18回、ユナイテッド8回と大きな差がありました。
その後、リヴァプールが長く優勝から遠ざかる一方で、ユナイテッドが黄金期を築き、2011年には優勝回数が19対18となって逆転します。
監督人事、若手育成、補強、重要な一戦――。
歴史を振り返ると、ほんの少しの分岐点の違いがクラブの運命を大きく変えていくことを実感しました。
2. 感じたこと
■ フットボールが文化として根づいた理由
イングランドのフットボールは、産業革命による地域間交流の活発化を背景に発展しました。
その後、テレビ放映や放映権ビジネスが拡大しても、収益を比較的分配する仕組みが実施されたことで、全国各地に地域クラブが存在し続ける土壌が生まれました。
フットボールは遠い世界の娯楽ではなく、「週末の生活の一部」として地域社会に根づいていったのだと思います。
フーリガンという負の歴史もありましたが、経済状況やスタジアム環境の改善によって成熟した観戦文化へと変化していったことは、スポーツと社会の関係を考えるうえでも非常に興味深い点でした。
■ 発足当初のプレミアリーグは最強ではなかった
現在のプレミアリーグしか知らないと意外ですが、発足当初は外国籍選手も少なく、欧州大会でも苦戦が続いていました。
「フットボールの母国」でありながら他国リーグの後塵を拝していた状況は、イギリスの政治的・経済的な停滞とも重なり、国民の自信にも影響していたのではないかと思います。
本書の主題ではありませんが、スポーツが政治や経済と密接につながっていることを改めて実感しました。
おわりに
本書は、プレミアリーグ誕生以前のイングランド社会を、フットボールというレンズを通して理解できる一冊でした。
第2巻では、いよいよプレミアリーグが国際化し、現在の世界的成功へとつながる時代へと突入していきます。本書で土台となる歴史を知っておくことで、その変化の意味をより深く理解できるはずです。
また、本書にはイングランド・フットボール史の転換点となった数々の試合や出来事が登場します。そうした「昔話」を知ったうえでプレミアリーグを観戦すると、選手や監督、OBの何気ない発言にも背景が見え、試合そのものの重みが変わってきます。
ただ試合結果を追うだけではなく、クラブが歩んできた歴史や土地の記憶まで含めて味わうことができる――。
それこそが、プレミアリーグ観戦の醍醐味なのだと感じました。
こんな人におすすめ
✅ プレミアリーグが好きな人
✅ サッカー観戦をもっと楽しみたい人
✅ サッカーの歴史に興味がある人
✅ イングランドサッカーが好きな人
✅ スポーツノンフィクションが好きな人
書籍情報
題名:プレミアリーグ全史1
著者:ベン・メイブリー
発行所:平凡社
ISBN:978-4-582-86081-8
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