野球|『高野連』書評 | 広尾晃

野球を専門とするスポーツライター・広尾晃さんが、これまでの取材や文献をもとに、高野連を軸として高校野球を取り巻くさまざまな問題について解説した一冊です。

高野連の成り立ち、歴代会長の来歴や問題への対応、現在の高校野球が抱える課題と高野連の取り組みなどが紹介されており、高野連という組織を通じて、高校野球がどのように発展し、時代ごとの問題に向き合ってきたのかが分かります。

甲子園という「怪物コンテンツ」によって、高校野球は単なる学校スポーツを超えた存在になっています。

一方で、高野連は問題が起きるたびに「対応が遅い」「時代遅れ」といった批判を受けがちです。しかし本書を読むと、そうした対応の遅さには、組織の理念や体制、そして約4,000校という加盟校を抱える組織ならではの難しさがあることも見えてきます。

現在の夏の甲子園は、どのような配慮や決断の積み重ねによって運営されているのか。そして、これからも高校野球、ひいては野球人気を維持していくためには、どのような改革が必要なのか。

高校野球ファンだけでなく、野球ファンにもぜひ読んで考えてほしい一冊です。

総合評価⭐⭐⭐⭐

読みやすさ   ★★★★☆
初心者向け   ★★★★☆
情報量     ★★★★★
観戦が楽しくなる★★★☆☆
おすすめ度   ★★★★★

目次

1. 内容

■高野連の成り立ち

1872年にお雇い外国人のホーレス・ウィルソンが日本に野球を伝えたとされ、その後、明治から大正にかけて東京六大学野球などを中心に人気が広がっていきました。

高校年代にも野球人気は急速に広がり、1915年には朝日新聞社の主催によって第1回の全国中等学校優勝野球大会が開催されます。

一方、加熱する野球人気に対して1932年には野球統制令が出され、さらに日米開戦直前の1941年には野球が「敵性スポーツ」とみなされるなど、戦前の高校野球界は国家権力の影響を大きく受けていました。

現在の高野連につながる組織が誕生したのは、終戦直後の1946年です。

1946年1月、「全国中等学校野球連盟」の設立総会が開かれました。同年8月に再開される戦後初の夏の甲子園を開催するための組織で、当時は甲子園球場が接収されていたため、西宮球場で大会が行われました。

朝日新聞社は1915年の第1回大会から大会を主催し、甲子園球場を提供する阪神電鉄とともに高校野球を支えてきました。

その後、1948年の学制改革によって「全国高等学校野球連盟」、現在の「高野連」へと名称が変更されます。

同年には全国高等学校体育連盟(高体連)が設立され、高野連もその傘下に入るよう働きかけがありました。しかし、高野連は文部省(現在の文部科学省)につながる組織となることを拒み、独立した組織として現在に至っています。

その結果、高野連と高体連は現在も別組織であり、高体連が開催するインターハイにも高校野球は参加していません。

■「自律」と「連帯責任」

1950年、上部団体である学生野球協会が「日本学生野球憲章」を発表します。

この際、憲章に違反した学校や指導者、選手を審査する仕組みが設けられ、その後、不祥事が発生するたびに謹慎や対外試合禁止などの処分を高野連が科すようになりました。

これは、かつての野球統制令のように国家権力の介入を許さず、同時に選手の引き抜きや青田買いなどが行われていたプロ野球とも一線を画し、自分たちで野球界を律していくための仕組みでした。

一方で、その処分の原則となったのが「連帯責任」です。

そのため、時には野球部員以外の不祥事によって、野球部が公式戦への出場を辞退するケースもありました。

■歴代会長の取り組み

高野連の会長は、初代の上野精一から現在の第9代・北村聡まで9名が務めてきました。

歴代会長は、それぞれの時代に生じた問題に対して、さまざまな対応を行っています。

  • 1955年……退部届提出前のプロ野球との交渉禁止
  • 1962年……プロ野球関係者の高校野球界への復帰禁止
  • 1963年……財団法人化
  • 1974年……金属バットの導入
  • 1993年……大会前の投手のメディカルチェック導入
  • 1994年……ベンチ入り人数を15人から16人へ拡大
  • 1997年……連合チームを限定的に許可
  • 2004年……プロ志望届の開始
  • 2012年……特別な理由のない連合チームを許可
  • 2012年……特待生制度の条件整備
  • 2013年……学生野球資格回復制度の見直し

これらは取り組みの一部ですが、例えばメディカルチェックを導入した第4代会長の牧野直隆は、1934年に沢村栄治らとともにメジャーリーグ選抜と対戦した経験を持っています。

その際に投手の投げすぎについて意見を聞いた経験が、後の取り組みにもつながっています。

歴代会長それぞれの生い立ちや野球経験、スポーツに対する考え方、組織におけるリーダーシップなどが、高野連の施策にも反映されていることが分かります。

■現在の高校野球の課題と、対策に必要な収益

現在の高校野球には、「球数制限」「暑さ対策」「7回制」「金属バット問題」「寮での暴力問題」など、さまざまな課題があります。

高野連には、これら一つひとつについて、地域や規模、競技レベルの異なる加盟校にとっての最適解を考えることが求められています。

例えば球数制限についても、加盟校の4分の1以上が部員20人以下であることを踏まえ、部員数の少ないチームが不利にならない制度設計について議論されています。

一方で、高野連には財政面での難しさもあります。

かつて税務調査を受けた際、甲子園大会を慈善事業として扱い、非課税事業とした経緯などから、高野連の収入の9割以上が入場料収入となっており、放映権料などの収入はほとんどありません。

また、高野連が主催していない高校野球関連の取り組みについても、営利目的とみなされないよう、スポンサーや商品の授受などを制限しています。

例えば各球場に簡易的な冷却装置を設置するだけでも、人手と物資の両面でコストがかかります。

高校野球をより安全な環境にしていくためには、改革だけでなく、それを実行するための財源も必要になることが分かります。

2. 感じたこと

■意思決定の難しさ

これまで高野連は、さまざまな問題に対してアクションを起こし、時代に合わせて高校野球の環境を整備してきました。

2005年には最大約4,250校、2014年には17万人以上の部員がいたことを考えると、これだけの規模の組織を維持してきたこと自体、簡単なことではありません。

「時代遅れ」と批判されることもありますが、地域、学校規模、競技レベルが異なる約4,000校すべてに関係する問題について、誰もが納得できる制度を作ることは非常に難しいことだと思います。

問題が起きればすぐに変えるのではなく、多くの意見を聞きながら慎重に意思決定してきたことも、高野連という組織が長く維持されてきた理由の一つなのではないでしょうか。

甲子園という巨大な大会があるとはいえ、高野連から脱退する学校がほとんどないという事実からも、一定のルールと統一された環境を提供する組織としての役割は、十分に果たしてきたのだと感じました。

■独立組織としての限界

一方で、近年は高校野球を取り巻く問題が多様化し、さらに社会の変化するスピードも速くなっています。

これまでのように高野連という一つの組織だけで対応するには、限界が来ているのではないかと感じました。

例えば「7回制」は試合時間だけでなく、野球そのもののルールに関わる大きな変更です。その先にある大学野球やプロ野球との連続性まで含めて考える必要があります。

また、暑さ対策として甲子園以外の球場を使用する案についても、高野連の成り立ちや甲子園、朝日新聞社との関係を考えると、高野連だけで簡単に決められる問題ではありません。

アメリカのようにすべてをNPBの傘下に置くことは、日本の野球界の歴史を考えると現実的ではないと思います。

ただ、高野連と他の野球組織との関係を含め、野球界全体で役割を見直していく必要性は高まっているのではないかと感じました。

おわりに

「高野連」と聞くと、どこか古く、専横的な組織というイメージを持っていました。

しかし本書を読み、これまでの歴史や実際の取り組みを知ることで、その印象は大きく変わりました。

高野連は高校野球のために作られた組織であり、これまでにも時代に合わせて多くの改革を行っています。

それにもかかわらず、こうした取り組みがあまり知られず、悪いイメージだけが残ってしまうのは、甲子園での長い会長挨拶や不祥事に関するニュース以外では、高野連自身の情報発信が少ないことも一因なのではないかと思います。

筆者は地方高野連の古い体制や、ネット社会への対応の遅れなどを指摘しています。

一方で、先進的な指導者による新しい取り組みなどについても多く紹介されています。

少子化によって規模は縮小したとはいえ、高校野球は現在も全国で約3,700校、12万5,000人もの部員が参加する巨大なスポーツ活動です。保護者や指導者、学校関係者などを含めれば、さらに多くの人が関わっています。

だからこそ、高野連には「何をしている組織なのか」「なぜこのような決定をしているのか」を、もっと積極的に発信してほしいと感じました。

歴史や実態を知るだけでも、組織に対するイメージは大きく変わります。

高校野球がこれからも多くの人に愛され続けるためには、競技環境を変えていくだけでなく、高野連自身の情報発信やブランドイメージも変えていく必要があるのではないでしょうか。

本書は、高野連を批判するための本というよりも、高校野球がどのような歴史と仕組みの上に成り立っているのかを知り、これからの高校野球を考えるための一冊だと感じました。

夏の甲子園を観るときにも、これまでとは少し違った視点で大会や高野連を見ることができるようになる一冊です。

書籍情報

題名:高野連
著者:広尾晃
発行所:新潮社
ISBN:978-4-106-11130-3

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この記事を書いた人

スポーツ観戦と読書が好きです。戦術や駆け引き、選手の思考まで深く楽しんでいます。
スポーツ本の書評や観戦術を通して、スポーツをもっと深く、面白くする視点を発信しています。

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