世界史|『銃・病原菌・鉄 1万3000年にわたる人類史の謎(上下)』ジャレド・ダイヤモンド【3冊目】
なぜヨーロッパ文明がアメリカ大陸を「発見」し、南北アメリカ大陸の文明を征服することができたのか。なぜ、南北アメリカ大陸の文明がユーラシア大陸を「発見」し、征服することは起こらなかったのか。
1492年にコロンブスがアメリカ大陸を「発見」し、その後半世紀も経たずにヨーロッパ文明はインカ、アステカといった南北アメリカ大陸の文明を征服した。2つの文明が遭遇したとき、経済力、軍事力には大きな差があった。この差は偶然なのか、必然なのか。本書は、この問いに対して、「種」「病原菌」「銃」という視点を軸に解析し、その謎を解き明かしている。
読み終わったとき、今まさに世界規模で問題になっている人種の問題は紀元前1万1000年という太古の昔に端を発し、人類の歴史が積み重なったことによって生じているということを、驚きをもって理解できる1冊である。
1.本書における主な問い
■食料を持てる者と持たざる者はなぜ生まれたのか
紀元前1万1000年においては、ほぼ等しく狩猟採取生活を送っていた人類。その後食料を持てる者と持たざる者が生まれ、多くの場合持てる者が持たざる者のことを征服したり、追放したりしてきた。なぜこのような違いが発生したのか。
■免疫を持てる者と持たざる者はなぜ生まれたのか
現在においてもなお多くの人の命を奪っている病原菌。歴史の中で、病原菌の蔓延による大量死は度々発生している。また、文明が衝突した際、免疫を持たざる者はなすすべなく死に至り、持てる者の征服に抗うことができなかった。
なぜこのような違いが発生したのか。
■銃を持てる者と持たざる者はなぜ生まれたのか
中世以降に発展し、多くの戦いでその勝敗を分ける要因となった銃火器。現代においてもパワーの源である軍事力や道具を使う力の発生は、なぜ偏りがあるのか。
2.主な視点
■「種」(農耕と牧畜)
農耕による食料生産の開始により、余剰食糧が生まれた。余剰食糧は人口の絶対数の増加だけでなく、食料の非生産者を発生させた。非生産者は、祭祀、教育、官吏など「生きる」ことには必要ない仕事を生み、彼らの仕事により国家が成立するようになった。
また、家畜化により更なる生産力の向上や軍事力の向上がもたらされる。
■「大陸地形」
ユーラシア大陸は東西に広い。南北アメリカ大陸、アフリカ大陸は南北に広い。この違いは、発明された農耕、牧畜がより広い世界へ広まるうえで重要な違いとなった。
東西に広い場合、気象環境は似ている傾向にあるため、同じ栽培、飼育手法を採用しやすい。一方で南北に広い場合、気象環境の変化に合わせる必要があり、場合によって栽培、飼育ができない場合もある。
■「病原菌」(免疫)
人類を病にする病原菌の多くは他の動物由来であったり、他の動物を媒介としている。家畜がいることはそれだけで人類に害を成す病原菌との接触回数を増やすが、一方で免疫構築の機会も増やしている。
■銃(道具を使う力)
人口規模が多く、非生産者が居ることは知へ集中できることを意味する。また、多くの発見は周辺へ伝播するが、似たような環境であれば、その知識を前提に改善を行うことが可能である。
3.まとめ
本書の問いの持てる者と持たざる者が、もっともはっきりと接触したのがコロンブスのアメリカ大陸「発見」以降に生じた、南北アメリカ大陸におけるヨーロッパの征服である。食料(=経済力)を持ち、免疫を持ち、銃を持つヨーロッパ文明がアメリカ文明を征服し、支配者と被支配者の構図が確立した。
ヨーロッパが持っており、南北アメリカが持っていなかった理由は、農耕に適した植物が身近にある。家畜化しやすい動物が身近にいた。ユーラシア大陸は東西に広く、多くの発明、知見を手に入れることができた。持っているものを軍事力というパワーに使うことができた。という偶然が積み重なった結果である。
4.感じたこと
「全世界」が発見されて以降、時代ごとの超大国は変化していても、世界規模の枠組みは変わっていないということを気付かされた。人種差別が問題になっているが、人種差別すらも1492年以降の政治体制によって生まれた問題であり、本書に書かれているようなこの根本的な発生要因の理解と解決策の提示がなければ、解決できる問題ではない。
本書の後半に中国に対して触れている章があるが、本書の中では中心的ではないのであまり詳細な記述がない。日本においては、古くから中国とうまく付き合い発展してきた。歴史から物事を学ぶ場合、日本においては中国との関係性を理解する必要があるため、本書の視点を生かしつつ、中国の理解を深めたいと感じた。
書籍情報
題名:銃・病原菌・鉄
著者:ジャレド・ダイヤモンド
訳者:倉骨 彰
発行所:株式会社草思社
ISBN:978-4-7942-1878-0
目次
【上巻】
プロローグ ニューギニア人ヤリの問いかけるもの
第1部 勝者と敗者をめぐる謎
第1章 一万三〇〇〇年前のスタートライン
第2章 平和の民と戦う民の分かれ道
第3章 スペイン人とインカ帝国の激突
第2部 食料生産にまつわる謎
第4章 食料生産と征服戦争
第5章 持てるものと持たざるものの歴史
第6章 農耕を始めた人と始めなかった人
第7章 毒のないアーモンドのつくり方
第8章 リンゴのせいか、インディアンのせいか
第9章 なぜシマウマは家畜にならなかったのか
第10章 大地の広がる方向と住民の運命
第3部 銃・病原菌・鉄の謎
第11章 家畜のくれた死の贈り物
第12章 文字をつくった人と借りた人
第13章 発明は必要の母である
第14章 平等な社会から集権的な社会へ
第4部 世界に横たわる謎
第15章 オーストラリアとニューギニアのミステリー
第16章 中国はいかにして中国になったのか
第17章 太平洋に広がっていった人びと
第18章 旧世界と新世界の遭遇
第19章 アフリカはいかにして黒人の世界になったか
エピローグ 科学としての人類史