スポーツ全般|『「地元チーム」がある幸福~スポーツと地方分権~』橘木 俊詔【5冊目】
日本中の野球、サッカー、バスケットボール、アイスホッケーの各プロチームの場所をマッピングすると、日本の全都道府県にチームが存在していることがわかる。
かつて大都市にしか存在していなかったプロチームが、各地方都市に展開してきていることはどのような意義があるのか。オリンピックと各リーグの比較、またダービーマッチを例として説明を行っている一冊である。
1.スポーツの中央集権
■オリンピック
大都市もしくは首都で開催されることがほとんどとなっている夏季オリンピックは、スポーツの中央集権の最たるもの。巨額な資金が必要となっているため、大都市もしくは首都でしか開催できない構造になっている。五輪開催のために、施設、住宅、インフラなどへの投資が行なわれるが、その利益を享受できるのは開催都市圏の住民がほとんどとなる。
■箱根駅伝
関東学生陸上競技連盟(関東学連)の加盟大学のみが参加できる箱根駅伝。関東学連のみの参加となっている理由は、大会の成り立ちに起因するが結果として多くの学生長距離ランナーは関東の大学に入学している。
■メディア
多くのメディアの本社は東京に存在している。新聞を中心に地方メディアも多く存在しているが、テレビ放映やそのための取材は関東キー局に集中するまた。国際試合は関東キー局のスタッフによって担当されることが多い。
2.プロスポーツの地方分権
■プロ野球
現在のNPB12球団は、北海道・東北・愛知・広島・福岡で5球団、関東・関西で7球団と日本全国に分散しており、かつての関東・関西への集中と比べると地方分権として望ましい姿になっている。また、空白地域においても独立リーグが存在しており、地方活性化ならびに地方球界の活性化に効果を上げている。
■プロサッカー
Jリーグは発足当時から地域に根ざしたクラブチーム作りという思想があり、企業名ではなく地域名をチーム名に入れるなど地域密着型の組織運営をしている。
■アイスホッケー・アジアリーグ
日本・韓国・ロシアが所属している国際的なリーグである。一方で日本国内の4チームは日光、北海道、東北と地域のチームの顔もあり、ローカルとグローバルガ共存しているリーグになっている。
3.感じたこと
■地域クラブの存続について
「地元チーム」が良いということはスポーツ振興の面からも、地域活性化という面からも明らかである。一方で、チームの維持が難しいということは「地元チーム」を考えるうえで非常に重要なことと感じる。J3チームを例にあげて解説がなされているが、一般論ではなく経済学者目線での解決策を聞いてみたかった。
■地域住民・地域社会による地元チームの活性化
本書はどちらかというと中央目線で書かれていると感じる。世界中のダービーマッチの例が書かれているが、ダービーマッチの多くは歴史的な地域間対立が根本となっているケースが多い。「地方分権」を目的とする以上、主役は地域社会・地域住民であるが、具体的な地域社会における地元チームの盛り上げ方や地域活性化への地元チームの利用方法などの記載が欲しかった。
書籍情報
題名:「地元チーム」がある幸福 ~スポーツと地方分権~
著者:橘木 俊詔
発行所:集英社
ISBN:978-4-08-721092-7
目次
はじめに プロスポーツの振興が地方を活性化する
日本のプロスポーツチーム一覧
序章 「東京一極集中」は何が問題なのか
第1章 「スポーツの中央集権」が生み出す功罪
第2章 プロスポーツはすでに「地方分権」にシフト
第3章 プロスポーツが「地方都市」で繁栄する効果
第4章 地域のライバル意識による「ダービー・マッチ」
終章 プロスポーツ「地方展開」のさらなる可能性を探る