スポーツ全般|『今こそ「スポーツとは何か?」を考えてみよう』 玉木 正之 【4冊目】
「サッカー」とはどのような意味なのか。バレーボールの「バレー」とはどのような意味なのか。当たり前のように日頃口にしているスポーツ名も質問されると答えることができない。
では、そもそも「スポーツ」とは何なのか。「体育」と混同しがちだが、「スポーツの祭典」であるオリンピックには、かつて「芸術種目」が存在していた。本書は、実は誰もがわかっているようでわかっていない「スポーツとは何か」について、書籍、音楽、美術などといった一般的には「芸術」と呼ばれている観点も含めて、広い範囲で解説をしている。
東京オリンピックの開催が危ぶまれている今だからこそ、多くのスポーツ好きが読み、「スポーツ」について考えるきっかけとすべき一冊である。
1.印象に残ったこと
■スポーツとは何か?
スポーツの語源はラテン語の「デポルターレ(DEPORTARE)」と言われており、「日常的な生活(労働)を離れた非日常の時空間」のことだった。
したがって、体を動かすことだけでなく、芸術も含めて非日常はすべてスポーツと言っても間違いではない。では、どうして多くの日本人は「スポーツ = 体育」と考えているのか。
■スポーツと民主主義
スポーツという文化は民主主義社会からしか生まれないという説がある。古代オリンピックを開催していたギリシャ、近代オリンピックの発祥であるイギリス、どちらも形式は異なるが民主主義社会国家であった。
多くのスポーツ競技は戦争や争いを暴力なしで解決するために生み出されている。したがって、スポーツが発明されるには暴力に頼らない問題解決(=民主主義による解決)が、根底に存在していた。
では、ボクシング、レスリング、相撲・・・格闘技はスポーツではないのか。
■スポーツと芸術の関係性
本書には多くのスポーツと関連する書籍、音楽、美術が取り上げられている。よく体育会系と文化系と区別して呼ぶが、実際には不可分であり、どちらも同じ「スポーツ」である
2.現代スポーツの問題点
■両性具有の女子選手の取り扱いについて
陸上競技を中心に近年問題になっている両性具有選手や性別転換選手の活躍。
多くの競技は公平性を保つためのルール作りがなされている。両性具有選手や性別転換選手が「女子」選手として活動することは「公平」な取扱いと言えるのか。
■ドーピング
ドーピング問題は今に限った問題ではなく、過去には旧ソ連や東側諸国の利用疑惑も残っている。オリンピックなどの国際舞台での活躍は、「個人の名誉」だけでなく「国家の栄誉」をもたらす。人一倍負けず嫌いな人の集まりでもあるアスリート達。ドーピングには体の問題だけでなく心の問題も生じている。
■eスポーツはスポーツか
近年聞く機会が増えている「eスポーツ」の言葉。身体性がないことから、スポーツとしては見なさないという意見が一般的である。しかし、スポーツとは「日常から離れた空間」であるならば、eスポーツもスポーツではないのか。
3.まとめ
「スポーツとは何か?」本書を読むまでは答えられそうで答えられない問いであった。改めて考え直すと、感覚的に利用していた言葉であり、根底には「体育」があったように思う。
多くの日本人は「スポーツ= 体育」として育っているが、実際には「体育」だけでない。本書はそんなスポーツとは何かについて、各競技の語源やルーツ、書籍、音楽、美術などの芸術分野、政治体系など様々な観点から説明がなされている。
著者は現在スポーツの多くが、そのような文化性、芸術性から離れ、経済的、多国間競争的活動となっていることを「暴走」と評して危惧している。(開催されると信じている)来年のオリンピックを控え、改めてスポーツの意義を考え直し、「暴走」だけでない発展を考えていきたい。
書籍情報
題名:今こそ「スポーツとは何か?」を考えてみよう!
著者:玉木 正之
発行所:春陽堂書店
ISBN:978-4-394-99001-7
目次
第1章 「スポーツって何?」と聞かれて、あなたは答えられますか?
第2章 古いスポーツと新しいスポーツ
第3章 オリンピックとは「何」なのか?