データビジネス|『スケールフリーネットワーク』島田 太郎・尾原 和啓【9冊目】
新しい東芝の挑戦方法が書かれている本。スケールフリーネットワークの理論は特に新しいものではないと言うが、このようなビジネスの種をうまく咲かせることができないのが日本企業の弱点ではないか。
記載されている電子レシートや産業データの共有化は新しい考え方ではないが、
大きくビジネスに出来ているプレーヤーがいない分野でもある。
スリムになったとはいえまだまだ巨艦の東芝がビジネスモデルを転換できるかはトップマネジメントが重要であり、本書著者の島田氏がどこまで変えていけるかが楽しみである。
1.印象に残ったこと・学んだこと
■DXの誤解
単に既存の業務をデジタル化するのではなく、「ビジネス」をデジタル技術においてトランスフォーメーション(変容・変革)していくことがDXであると本書では定義されている。「ビジネスを」というのがポイントであり、既存の方法論を破壊することもあるため、ある程度の痛みを伴う点を理解していく必要があると学んだ。
■スケールフリーネットワークとは
1998年にアルバート=ラズロ・バラバシ教授らによって唱えられた理論。イメージとしては航空機の路線図のような、ハブ型の構造であり、一部のノードにリンクが集中すること。この構図は人間関係からたんぱく質の自然作用まで広く自然界で有効になっている法則。
東芝はこのハブになること、特にまだGAFAが取得できていない産業データのハブとなることを目指し、ビジネスモデルの変革を実施しようとしている。
■データは誰のものか
「人が起源のデータは本人に権利がある」という考え方をベースに、
・自分のデータを管理し、コントロールできること
・自分のデータを自由に移動できること
・データをつなぐことは自分自身で行うこと
の3つのルールに基づいて、東芝ではデータを取り扱っていくとのこと。
2.2つの事例
■スマートレシート
東芝テックが手掛ける電子レシートサービス。POSレジで購入した情報を紙のレシートではなく、電子情報としてスマートフォンに届けることができるサービス。
https://www.smartreceipt.jp/
家計簿アプリとの連動やクーポン発行、キャンペーン展開などが可能になっている。ヘルスデータなどと連携することで、予防医療や健康増進などに役立てることが出来ないか、小売り現場以外の利用も模索している。
■ifLink(イフリンク)
東芝デジタルソリューションズが手掛けているIOTプラットフォーム。IOT機器やウェブサービスを共通の規格でモジュール化し、つなげられるようにするためのプラットフォーム。
https://www.toshiba-sol.co.jp/pro/iflink/contents/open_community.htm
スマートフォンのアプリ上でモジュールとモジュールを組み合わせることで、プログラミングの知識やスキルが無くてもアプリが構築できるようなサービス。
3.所感
東芝が掲げているCPSカンパニー(サイバーフィジカルカンパニー)の具体的な中身を知ることが出来たように感じた。また東芝に限らず、日本の各企業持っている資産を有効活用し、産業データをビジネスにつなげることでGAFAと異なるビジネスモデルを構築することがGAFAに対抗する方法であると筆者は説明しており、私もこの考え方には非常に賛成である。一方で、この方法を進めるには人事評価制度含め社内の構造、考え方を大きく変えていく必要がある。そのような痛み(筆者はDXには不可欠と説明している)をいかにトップのリーダーシップで進めていくことが出来るか、またその輪を大きくしていくかがこれからの日本の各企業には求められていくのだと感じた。
書籍情報
題名:スケールフリーネットワーク ものづくり日本だからできるDX
著者:島田 太郎・尾原 和啓
発行所:日経BP
ISBN:978-4-296-10771-1
目次
はじめに
Chapter1 日本企業は「DX」にどう立ち向かえばいいのか
Chapter2 スケールフリーネットワークの爆発力
Chapter3 アフターデジタルの世界で日本が持つ優位性
Chapter4 日本が取るべきステップとは
Chapter5 発想を転換できれば、日本にはチャンスがある
Chapter6 二回戦に向けて、日本企業が備えるべきこと
あとがき