歴史人口学|『エマニュエル・トッドの思考地図』エマニュエル・トッド【7冊目】
出生数と死亡数、家族構成という非常にシンプルな観点から世の中を観察し、ソ連崩壊やイギリスEU離脱などを著書内で予言してきたエマニュエル・トッド氏。この本では、そんな歴史人口学者の思考方法がエマニュエル・トッド本人によって解説されています。
1.印象に残ったこと①:トッド氏の読書について
■自分の中に図書館を作る
知的活動は基本的に入力(インプット)→思考→出力(アウトプット)という3つのフェーズで構成されている。
入力において、トッド氏はひたすら読書を行いその結果膨大な量の知識・データが頭脳に蓄積されている。
まさにトッド氏の頭脳は図書館のようになっているのである。
■市民としての読書
歴史修正主義的な観点に対抗するための読書。思想によって歴史がゆがめられ解釈されてしまうことに対して、正しい歴史的事実を理解するための読書であり、歴史家であるトッド氏らしい観点の読書である。
■古典を読む意義
毎月、毎年超大作の作品が出版されるわけではない。特に歴史学、人口学、社会学の分野においては。
そのためトッド氏は古典も含めて過去の著作を多く読んでおり、その結果現代に囚われない一歩引いた視点を持つことが可能になっているという。
2.印象に残ったこと②:トッド氏の思考について
■思考とは
トッド氏にとっての思考とは、とある現象と現象の間にある偶然の一致や関係性を見出すこと、つまり「発見」だという。膨大かつ複雑なデータを編集しているとある日突然体系だったアイディアを思いつく。しかもその思い付きは非常にシンプルな内容である。
■アイディアを妨げるもの
直感やアイディアが浮かばない理由には2つ考えられる。
1つ目は自分の中に無意識でランダムな考え方がないこと。2つ目は社会がそのアイディアを持たせないようにしていること。
1つ目の無意識の中に考え方が無い理由としては、①データを把握する能力が欠けている、②データやその背景にあるものを理解する能力が不十分、③インプットデータが無意識のレベルで混ざり合うほど定着していない、④あるデータと別のデータを結びつける試行錯誤の不足の4点が考えられる。
2つ目の社会が新しいアイディアを許容しないことの一例としてグループシンク(集団浅慮)と呼ばれるものがある。
3.まとめ
この本を通じて、出生、死亡、家族という非常にシンプルなデータを使いながら世の中を見通し、新しい考え方を世の中に提供してエマニュエル・トッド氏の思考方法を感じることが出来た。
特に、まず重要なことは無意識レベルで融合できるレベルまで落としこまれた知識であり、それを習得するための読書であり、改めて読書の意義を再考することが出来た。
この本の最後にトッド氏はポストコロナ時代の日本社会の少子高齢化社会の動きについて予測している。表面的には欧米諸国よりもうまくコロナを収束させ、国民が満足感得る一方で『高齢者を救うことよりも子どもを産むことのほうが大切であるという見えなくさせてしまう』という一文は非常に考えさせられる内容であった。
書籍情報
題名:エマニュエル・トッドの思考地図
著者:エマニュエル・トッド
訳者:大野 舞
発行所:筑摩書房
ISBN:978-4-480-84753-9
目次
序章 思考の出発点
1章 入力 -脳をデータバンク化せよ-
2章 対象 -社会とは人間である-
3章 創造 -着想は事実から生まれる-
4章 視点 -ルーティンの外に出る-
5章 分析 -現実をどう切り取るか-
6章 出力 -書くことと話すこと-
7章 倫理 -批判にどう対峙するか-
8章 未来 -予測とは芸術的な行為である-